「偽りその他不正の行為」-国税通則法70条4項の解釈適用- 036 (平成27年7月)
東京国税局課税第一部国税訟務官室では、税務署職員に対して「調査に生かす判決情報」と題して「調査手続」や「証拠の収集と保全」など調査等に役立つポイントについて、具体的事例や判例を紹介しながら、数回に分けて発信しています。
すべてが正しいとは思えませんが、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と言います。税務署がどのように考えているのかを知ることは重要です。
税法上、「偽りその他不正の行為」という文言と「隠ぺい又は仮装行為」という文言があります。
税務署では、「ほぼ同じ意味」として認識していますが、若干、両者を区別しているところがあります。
では、どのような点を区別しているのでしょうか。
<最高裁平成17年1月17日第二小法廷判決(原判決破棄差戻し)東京高裁平成18年1月18日判決(差戻控訴審)>
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「偽りその他不正の行為」と「隠ぺい又は仮装行為」は、実務においておおむね同じものとして取り扱われている。
「偽りその他不正の行為」
納税者以外の第三者による不正の行為が介在する折にも適用される。
「隠ぺい又は仮装行為」
第三者により隠ぺい又は仮装行為がなされた場合、それが「納税者本人の行為と同視することができる場合」には適用されるが、「納税者本人の行為と同視することができない場合」には適用されない。
両者は別個の概念であり、重加算税の賦課がない場合であっても、7年間の除斥期間が適用される場合がある。
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国税通則法第70条第5項では
「偽りその他不正の行為により・・・」
と偽りその他不正の行為の行為主体について、条文上限定を付していません。
そのため、最高裁では
「同項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるというべきである。」
としています。
つまり、「納税者本人」が偽りその他不正の行為をしなくても、税理士等が偽りその他不正の行為をした場合には、
「偽りその他不正の行為」
があったとみなされることになります。
一方、国税通則法第68条第1項において
「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき・・・」
と隠ぺい又は仮装行為の主体を納税者に限定するかのような文言を規定しています。
文言上は、「納税者本人」が隠ぺい又は仮装行為をしなければ適用されません。
(ただし、裁判例は、「納税者」とは納税者本人に限定されないとし、納税者本人以外の第三者の行為も、それが「納税者本人の行為と同視することができる場合」には「納税者」として取り扱っています。)
つまり、簡単に言うと税務署は
「偽りその他不正の行為」は納税者がその行為を行う意思とは関係なく適用される
「隠ぺい又は仮装行為」は納税者がその行為を行う意思がある場合に適用される
の違いと考えているようです。
多くの納税者は、税理士等に申告をお願いしていると思います。もし、税理士がきちんと申告をせずに、納税者の知らないところで「偽りその他不正の行為」をしてしまった場合には、納税者がそのペナルティーを受けることになります。
税理士も玉石混交です。
単純に報酬の値段だけで決めると後で大変なことになることもありますので、信頼できる方からの紹介、面談等をして決めることが必要と思います。