給与所得と事業所得の区別 その1(最高裁昭和56年4月24日判決の一部及び法人課税課速報H150700-28一部)
会社が個人に支払ったものが、給与所得に該当するのか、事業所得に該当するのかで、支払った会社の所得税及び消費税に大きな影響が生じます。
所得税で考えると
給与所得に該当するのであれば、源泉が必要となります。
事業所得に該当するのであれば、士業等の報酬の源泉の例示列挙に該当しなければ源泉の必要はありません。
また、消費税で考えると
給与所得に該当するのであれば、不課税取引に該当し、消費税がかからないため、仕入税額控除ができません。
事業所得に該当するのであれば、課税取引に該当し、仕入税額控除ができます。
会社では、従業員を雇用契約から業務委託契約に変更して、社会保険料の会社負担等を軽減させようと意図して変更することがあります。
また、そのような意図を持たなくても、個人と業務委託契約を結ぶことも多くあり、税務調査で、給与所得に該当するのか、事業所得に該当するのかで問題になるケースがあります。
税務署の行政文書の中に、「法人課税課速報」というものがあり、その中の「平成15年7月 第28号」に「給与所得と事業所得との区分 給与?それとも外注費?」として、税務署職員に向けて、どちらに該当するのか判断する目安が記載されております。
(判例上の判断基準)
判例上の判断基準はどうなっているのでしょうか。
最高裁昭和56年4月24日判決によると
給与所得は
「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」
一方、事業所得は
「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」
となっております。
A 「空間的、時間的な拘束」について
給与所得の判断基準に「空間的、時間的な拘束」があります。
支払者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものに該当するのであれば給与所得になり、該当しなければ事業所得になります。
ただ、最近の裁量労働制やコロナ禍でのリモートワークを考えると果たして、「空間的、時間的な拘束」が判断基準の一つではなくなってくるのかもしれません。
B 「非独立的、従属的労働の対価」について
給与所得の判断基準に「非独立的、従属的労働の対価」があります。
給与所得は他人の指揮命令を受けて提供された労務の提供自体に対する反対給付として法律的支払義務が発生するのに対し、事業所得は「自己の計算と危険において行われる経済活動としての事業から生ずる所得」であり、労務提供の対価ではなく自己の判断や危険負担に基づく仕事の完成に対する対価となります。
したがって、例えば、運送業務を考えた場合、
納入に至るまでの運送経路、出発時刻の管理、運送方法等の段取りを支払者が行い、役務提供者には許諾の自由がない場合には、給与所得
納入に至るまでの運送経路、出発時刻の管理、運送方法等の段取りを役務提供者自身が行い、役務提供者の自由に業務の遂行方法などを判断できる場合には、事業所得
になります。
C 「自己の危険と計算」について
事業所得の判断基準に「自己の危険と計算」があります。
「事業」であるためには、役務提供に係る成果の成就の危険性や役務提供のための費用の自己負担の必要があります。
また、引渡しの終わっていない完成品が不可抗力のため滅失した場合等において、役務提供者が報酬の請求をなすことができないリスクを負う場合は、事業所得であると判断できます。
タインズ
最高裁昭和56年4月24日判決 法人課税課速報H150700-28
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