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重加算税の付加要件 (令和2年3月10日裁決の一部)

税務調査などで修正申告をした場合、追加に支払う税金の他に加算税と延滞税が課せられます。加算税は間違えて申告してしまったこと等に対してのペナルティーの意味合いのもので、延滞税は利息の意味合いのものです。

この加算税ですが、単純に誤って申告してしまった場合と意図して税金を少なくして申告した場合とで支払う加算税の金額は変わります。また、意図して税金を少なくして申告した場合の加算税(重加算税)が課せられるとそれ以降の税務署の見方が変わってきますので、重加算税が課せられないように正しい申告をすることが必要です。

 

(状況)

A社は、建物に発生していた雨漏りを防止するための修繕工事について、B社に対し、工事代金の見積りを依頼し、工事代金を税込合計金額で3,217,860円とする平成30年1月13日付の見積書の交付を受けて程なく修繕工事の実施を依頼した。

B社は、修繕工事につき、平成30年3月31日(事業年度終了の日)までに、下請業者の手配や近隣住民への説明その他施工に向けた準備に取り掛かっていた。

A社は、B社に修繕工事についての請求書の発行依頼をして、「納品日」欄に「3月30日」、「商品名」欄に「修繕工事」、「今回ご請求高」欄に「3,132,000」と記載された平成30年3月31日付の請求書の交付を受けた。

修繕工事は、A社の平成29年4月1日から平成30年3月31日までの事業年度終了の日までに完了しなかった。

A社は、平成30年3月31日付で、請求書に基づき修繕工事の代金3,132,000円を「修繕費」勘定に計上し、法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入した。なお、修繕費について、総勘定元帳の「修繕費」勘定の「摘要」欄に「期末未払計上 B社 修繕工事 3月請求」及び相手科目名を「未払金」として記載している。

修繕工事は、遅くとも平成30年7月末日までに完了し、A社は、平成30年9月28日、B社に対し、修繕費を支払った。なお、修繕工事に係る請求書についてはこの請求書以外に存在せず、また、A社は修繕工事の代金をこの修繕費以外に支払っていない。

A社の経理事務について、請求書及び領収証の保存並びに入出金に係る会計伝票の作成を行い、それ以外の経理事務並びに総勘定元帳、決算書、確定申告書及び勘定科目内訳明細書の作成は、A社の税理士が行っていた。

 

(税務署の主張)

A社は、事業年度終了の日までに修繕工事が開始すらされていないことを認識していたにもかかわらず、B社に請求書の発行を依頼し、その依頼に基づき、B社は「納品日」欄に「3月30日」と虚偽の記載をした請求書を作成し、発行しているのであり、これらの行為は、「相手方との通謀による虚偽の証憑書類の作成」に該当する。

勘定科目内訳明細書の記載内容をみると、A社は、将来の費用、資産及び収益となるものを当期の費用等から峻別しなければならないという会計知識を有していたことがうかがえ、修繕費について、事業年度終了の日までに修繕工事が完了していなければ、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入できないことを認識した上で、本件事業年度の所得金額及び法人税額を過少にする意図の下、受領した本件請求書を基に本件修繕費を総勘定元帳の「修繕費」勘定に記載して損金の額に算入しており、その行為は、「帳簿書類への虚偽記載」に該当する。

 

(納税者の主張)

A社は、建物の雨漏りが事業年度に発生しており、修繕工事は豪雪の影響で完了していないものの、本来修繕すべき事業年度において計上すべき費用と認識していた。そのため、修繕工事に係る費用の額を確認するためにB社から請求書の交付を受けたにすぎず、請求書の納品日も、請求書の発行システムの便宜上入力されただけであり、修繕工事の完了日とは異なる。したがって、請求書の発行は、通謀による虚偽の証憑書類の作成に該当しない。

A社は、修繕費の計上時期について、上記のとおり認識していたため、事業年度の費用として計上したのであるから、所得金額を過少にする意図があったわけではなく、経理上の認識の誤りにすぎない。

 

(不服審判所の判断)

重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合、又は、隠蔽又は仮装という不正手段を用いて法定申告期限までに申告をしなかった場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。

したがって、重加算税を課するためには、過少申告行為又は無申告行為そのものが隠蔽又は仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為又は無申告行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたこと、又は法定申告期限までに申告がされなかったことを要するものである。

しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、過少申告をし、又は法定申告期限までに申告をしなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

今回のケースでは、修繕工事については、A社が平成30年1月13日付の見積書の交付を受けて程なく工事を発注し、これを受注したB社は、同年3月31日(事業年度終了の日)までに下請業者の手配や近隣住民への説明その他施工に向けた準備に取り掛かるとともに、同年4月頃にはA社の求めに応じて請求書を発行しており、その後は、B社により同年7月末までに本件修繕工事が完了し、同年9月28日に請求書に基づき修繕工事の代金が決済されている。

上記の事実経過をみると、B社がA社の求めに応じて請求書を発行したことについては、現に、B社が修繕工事の実施に向けた準備作業を行っていたところに、A社から依頼があったからこそ、請求書を発行するに至ったのであるから、修繕工事につき、B社により施工されることが確かなものとして施主であるA社側から依頼があれば、竣工前に請求書を発行したとしてもあながち不自然とは言い切れず、また、請求書の「納品日」欄に記載されている「3月30日」については、B社の請求書発行に係るシステムの便宜上「3月30日」と入力されたにすぎない可能性も否定できない。そして、請求書の「納品日」欄が直ちに修繕工事の完了日を示すと認めるに足りる証拠はないから、請求書の「納品日」欄に「3月30日」と記載がされているからといって、請求書が直ちに虚偽のものであるとまでは評価できない。

さらに、各証拠資料をみると、いずれもA社がB社に対して、修繕工事の代金に関して請求書の発行を依頼した旨が記述されているものの、請求書の「納品日」欄に修繕工事の完了日として「3月30日と記載することを依頼したこと、すなわち、請求書の発行に当たって、修繕工事の完了日を平成30年3月30日にする旨を依頼した事実に関する記述は存在しない。

したがって、各証拠資料だけからは、税務署が主張する「相手方との通謀による虚偽の証憑書類の作成」の事実を認めることはできないし、審判所の調査の結果を踏まえても、その事実を認めることはできない。

総勘定元帳、決算書、確定申告書及び勘定科目内訳明細書は、A社ではなく、いずれも税理士により作成されたものであり、また、A社は、通常、入出金に係る会計伝票を作成するにとどまり、修繕費のような未払金に関する会計伝票は作成していないのであるから、A社が経理事務を担当していることや勘定科目内訳明細書に将来の費用、資産及び収益となるものを峻別した記載があることをもって、A社が税務会計に関する知識や認識があったと認めることはできない。

税務署の主張する「相手方との通謀による虚偽の証憑書類の作成」及び「帳簿書類への虚偽記載」の各事実を認めることはできず、また、審判所の調査によっても、請求書の作成、請求書に基づくA社の経理処理及び修繕費の帳簿書類への記載などの一連の行為において、故意に事実をわい曲したと評価すべき行為は見当たらない。

したがって、A社が修繕費を事業年度の損金の額に算入したことに、仮装に該当する事実があるとは認められない。

 

(日々でやるべきこととは)

工事等長期間にわたるものについては、いつ、完成等しているか確認するとともに、税理士の決算打合せ等で損金算入できるか確認しておくことが必要です。

 

(税務調査でやるべきことは)

税務調査では、調査担当官の主観によって、税務否認や重加算の認定がなされるケースがあります。会社の経理処理の実態や税理士との役割分担をきちんと説明するとともに、取引先の出力帳票の仕組みも説明できるよう取引先と連絡を密にとることも必要です。

 

裁決

(令和2年3月10日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)

 

 

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