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どのような場合に重加算税が課せられるのか(条文上の要件)

税務調査が行われているときに、税務署職員から

「これは仮装隠蔽に該当するので重加算税を課します。」

と言われることがあります。

また、その時に合わせて納税者に対して

「いろいろお聞きし、その記録として質問応答記録書を作成しますので、署名をお願いします。」

とお願いされることがあります。

一概には言えませんが、この場合、往々にして、税務署職員は重加算税を課すことを確実にするために、質問応答記録書を作成して、重加算税を課すようにしようとしています。

 

税務署職員はもちろんとして、税理士や弁護士もきちんと重加算税が課せられる要件を理解している人(私も含め)は、少ないのかもしれません。

なぜ、重加算税が課せられる要件がきちんと理解されていないのでしょうか。

・きちんと重加算税に関する条文を理解していない

・裁決事例、判例において、たくさんの事例が存在し、また、その事例が同じような事例と思われるものでも結論が正反対になっているものもある

ことから生じていると思われます。

 

<重加算税に関する制度趣旨>

重加算税は、なぜ、法律で定められているのでしょうか。

重加算の制度趣旨としては

「平成7 年4 月28 日最高裁判決で示された「その意図を外部からも覗い得る特段の行動」の意義(解釈)についての一考察

-重加算税が賦課される隠ぺい、仮装の対象となるのは、具体的にいかなる行為をいうのか(過少申告行為そのものは隠ぺい、仮装の対象となるか)。-」(山口大学経済学部教授 安住修一 税大ジャーナル 10 2009.2)には、

「重加算税の制度趣旨は、その所得を基礎づける事実を隠し、税務調査を困難にするような操作をすることを防止し、真実の追究を困難ならしめる行為を防止することにあると考えられる。

税額や所得額等の課税標準は、証拠により結果として算出されるものであるが、計算の前提として所得発生原因事実や帳簿及び帳簿作成の基となる原始帳票としての請求書、領収書などの書類をその証拠として活用するものであり、この証拠の部分を隠ぺいし、又は仮装し税務調査を困難にし、正しい税額の算出に必要な正確な証拠入手を困難にすることにこそ重加算税の立法趣旨があると考えるべきである。その理由は、正確な帳簿及び帳簿等の証拠さえ備わっていれば、たとえ納税者が過少申告をしたとしても、証拠により適正な税額や所得額等の課税標準は算出が可能といえるからである。また、隠ぺい、仮装行為の典型例として挙げられる二重帳簿の作成、売上除外、

架空仕入れ若しくは架空経費の計上、棚卸資産の一部除外、取引上の他人名義の使用、虚偽答弁、証拠書類の改ざん等は、いずれも所得発生原因事実や帳簿及び請求書、領収書などの書類に係る証拠の部分を隠ぺいし、又は仮装するものが例示されており、過少申告そのものに対する例は例示されていないことからも、重加算税の立法趣旨は証拠の部分を隠ぺいし、又は仮装することを防止することにあることが覗える。」

との記載があります。

 

簡単にすると

「重加算税の制度趣旨は、領収書や請求書などの証拠書類や帳簿等を改ざんしたり、廃棄したりして、税務調査を行っても正しい税金の計算ができなくならないように、重加算という制度を設けて、納税者が正しい証拠書類や帳簿等の保存等をすることを目的としている。」

となります。

 

したがって、重加算税は、税計算が正しく行うことができる書類をきちんとしましょうということであり、脱税の目的を持たなくても、重加算税が課せられてしまうことも考えられます。

 

<重加算税に関する条文>

重加算に関する条文は、国税通則法第68条になります。

「第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。」

 

読みやすくにすると

「過少申告加算税の規定に該当する場合、納税者がその国税課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。」

となります(読みやすくなってないかもしれませんね)。

ここで、重要なのは

課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」

「全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」

の2つです。

 

課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」は、

「申告書に記載した金額」

を言っているのではなく、

「申告書に記載した金額の根拠となる資料」

です。

したがって、例えば、法人税で決算書上の当期利益が100百万円で、税務申告書の当期利益の欄に△10百万円と記載したことは重加算の対象にならないはずです。

本来、当期利益が100百万円だったものを△10百万円として決算書を作成して、その△10百万円を税務申告書の当期利益の欄に△10百万円と記載した場合には重加算の対象となることになります。

 

「全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」は、

実はきちんとした定義があまりない感じです。

事例はあるのですが、その事例を包括して、

「このような要件があった場合には仮装に該当する。このような要件があった場合には隠蔽に該当する。」

という説明はほとんどありません。

そのため、税務署職員が仮装隠蔽を自分の勝手な判断で決めて、「重加算税に該当します。」」というケースが出てくる可能性はあります。

通常の意味で考えれば

仮装とは、書類等を改ざんする意思をもって改ざんし、実際と異なる事実とすること。

隠蔽等は、書類等を隠す意思をもって隠すこと。

となるでしょうか。

少なくとも、勘違いやミスで生じたものでなく、意思をもってその行為をすることになると思います。

 

したがって、

申告書に記載した金額の根拠となる資料を書類等を改ざんする意思をもって改ざんし、実際と異なる事実としたり、隠す意思をもって隠したりして、申告書類を作成して、申告した場合

に重加算が課せられることになります。

 

 

 

税大ジャーナル 10 2009.2

平成7年4月28日最高裁判決で示された「その意図を外部からも覗い得る特段の行動」の意義(解釈)についての一考察 (nta.go.jp)

 

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