どのような場合に重加算税が課せられるのか(判例・裁判例上の要件)
税務調査が行われているときに、税務署職員から
「これは仮装隠蔽に該当するので重加算税を課します。」
と言われることがあります。
また、その時に合わせて納税者に対して
「いろいろお聞きし、その記録として質問応答記録書を作成しますので、署名をお願いします。」
とお願いされることがあります。
一概には言えませんが、この場合、往々にして、税務署職員は重加算税を課すことを確実にするために、質問応答記録書を作成して、重加算税を課すようにしようとしています。
税務署職員はもちろんとして、税理士や弁護士もきちんと重加算税が課せられる要件を理解している人(私も含め)は、少ないのかもしれません。
なぜ、重加算税が課せられる要件がきちんと理解されていないのでしょうか。
・きちんと重加算税に関する条文を理解していない
・裁決事例、判例において、たくさんの事例が存在し、また、その事例が同じような事例と思われるものでも結論が正反対になっているものもある
ことから生じていると思われます。
<仮装・隠蔽とは>
重加算税の条文上の要件として、「隠蔽し、又は仮装し」とあります。裁判例ではどのように考えられているのでしょうか。
最高裁判所での判決はありませんが、和歌山地裁昭和50年6月23日判決では
「「の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し」たとは、不正手段による租税徴収権の侵害行為を意味し、「事実を隠ぺい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得.財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行なうことを要するものと解すべきである。」
としています。
簡単にすると
・「事実を隠ぺい」するとは、事実を意図的に隠した、事実を意図的に漏らした
・「事実を仮装」するとは、事実を意図的にゆがめた
といことになります。
<税金を減らす意図は必要なのか>
事実の仮装隠蔽については、事実を意図的に隠したり、漏らしたり、ゆがめたりと、納税者の意図があります。しかし、例えば、税金を減らす目的でなく予算を消化するために事実を仮装しただけで、結果的に税金が少なくなった場合のように、税金を減らす意図はなかった場合はどうなるのでしょうか。
最高裁昭和62年5月8日判決では、
「重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。」
としています。
簡単にすると
「仮装隠蔽行為をしたことによって税金が減ったならば、税金を減らそうと思っていなくても重加算税がかかる」
ということになります。
これについては、結構、厳しいことだと思います。
上記の例のような予算を消化するという社内的な理由であるにもかかわらず、その行為が重加算税の対象となるということについて、一般的な社員にとって認識はないと思います。
<仮装隠蔽行為がなくても重加算税が課せられるとした判例>
重加算税に関する国税通則法第68条によれば、
「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」
で、仮装隠蔽行為があって、その仮装隠蔽行為に基づいて申告書を提出した時なります。
したがって、仮装隠蔽行為がなくて、税金を減らす目的で申告書だけを仮装隠蔽した場合には、重加算税は課せられないはずです。
しかし、最高裁平成7年4月28日判決では。
「納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、右の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである。」
としています。
簡単にすると
「重加算税制度の趣旨から考えると、事実に関して仮装隠蔽行為がなかったとしても、初めから税金を減らすことを意図して、外部からみても減らそうとする意図が見える行動をして、申告書だけで仮装隠蔽したときでも重加算税を課すことができる。」
としています。
申告書だけ仮装隠蔽したとき重加算税が課せられないというのは、変なことであるとは思うのですが、租税立法主義から考えると、条文にはないことで重加算税が課せられてしまうのはいかがなものかとは思います。本来は、法改正をすべきものであったと思います。
しかし、最高裁で判例がでているので、事実について仮装隠蔽はもちろんのこと、申告書だけでの仮装隠蔽でも重加算税が課せられることになります。
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