税務調査は怖くない

税務調査を怖いと思っていませんか。税務調査は健康診断と同じです。普通にしていれば恐れることはありません。税金相談、税務調査の対応などを ご希望の方は wonozeimu@gmail.com までお気軽にご連絡ください。

収入の計上の繰延べの場合の重加算税の賦課要件-意図的な収入の計上の繰延べは重加算税の賦課要件を充足するか- 023 (平成21年12月)

東京国税局課税第一部国税訟務官室では、税務署職員に対して「調査に生かす判決情報」と題して「調査手続」や「証拠の収集と保全」など調査等に役立つポイントについて、具体的事例や判例を紹介しながら、数回に分けて発信しています。

すべてが正しいとは思えませんが、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と言います。税務署がどのように考えているのかを知ることは重要です。

 

納税者意識の高まりを受けて、課税処分の所得金額の争いにとどまらず、調査手続の違法性を併せて争う事例が増加していることから、税務署に以下のように注意喚起をしています。

 

<参考判決 東京高裁平成21年4月23日判決(地裁・高裁 国側勝訴・確定)>

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

国税通則法68条1項所定の隠ぺい、仮装に該当するためには、隠ぺい又は仮装と評価し得る行為が、「故意」に成されたものである必要があり、そのことが客観的に明らかにされなければならないということです。

そして、その隠ぺい又は仮装と評価し得る行為が故意に成されたものであれば、繰り延べられた収入の全額が翌事業年度に計上されており、一見、「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第1の3(1)に該当するように見える場合であっても、重加算税の賦課要件を充足することになります。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第1の3(1)>

法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第1の3(1)は次のように規定されております。

第1 賦課基準

(帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない場合)

3 次に掲げる場合で、当該行為が相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等でないときは、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない。

(1)売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、翌連結事業年度。(2)において同じ。)の収益に計上されていることが確認されたとき。

(2)以下、略。

 

簡単に言うと

単なる売上の計上漏れであれば、重加算に該当しません。

ということになります。

 

この裁判例

・故意に、経理システムに正しく入力した完成工事収入の金額を消去し、減額した金額で再入力する方法によって収入の計上を翌期に同額を繰り延べていました。

税務署は重加算を賦課しましたが、納税者は、

・収益の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度の収益に計上されている

・相手方との通謀がない

・証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんがなく

法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第1の3(1)に該当することから重加算はおかしいと主張しました。

 

確かに、収益は翌期に計上され、相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんはありませんでした。

 

しかし、裁判所は、

所得を過少に申告して法人税の負担を軽減するために、計上すべき収入の一部を故意に除外して帳簿書類に虚偽の記載をしたものであるから、事務運営指針第1の1(2)②の「帳簿書類への虚偽記載」に該当することが明らかであり、このように収入の一部を故意に除外して、これを翌期に計上することは、同3(1)にいう収入の計上の繰延べに該当しないと解されるし、また、振替伝票を書き換えて、総勘定元帳に記載することは、同3柱書にいう「証ひょう書類等の…改ざんによるもの等」に当たるというべきである。

として、重加算の賦課は適法としました。

 

形式上は、確かに、法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第1の3(1)に該当するのかもしれませんが、実質は、故意に売上の翌期計上をしているのですから、やはり、重加算に該当することになるでしょう。

 

通達、事務指針に形式的に該当するとしても、実質的に該当しなければ、通達や事務指針と違った処分になることもありうることを理解することが望まれます。