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従業員の横領行為に対する損害賠償請求権の益金計上時期-調査で経理部長の横領行為を把握。損失と損害賠償請求権の処理はどうなる?- 024 (平成22年10月)

東京国税局課税第一部国税訟務官室では、税務署職員に対して「調査に生かす判決情報」と題して「調査手続」や「証拠の収集と保全」など調査等に役立つポイントについて、具体的事例や判例を紹介しながら、数回に分けて発信しています。

すべてが正しいとは思えませんが、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と言います。税務署がどのように考えているのかを知ることは重要です。

 

納税者意識の高まりを受けて、課税処分の所得金額の争いにとどまらず、調査手続の違法性を併せて争う事例が増加していることから、税務署に以下のように注意喚起をしています。

 

<参考判決 東京高裁平成21年2月18日判決(納税者の 請求を認容した原判決を取消し、確定)>

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不法行為による損失と損害賠償請求権の関係>

不法行為による損害賠償請求権は、通常、損失が発生した時に請求権も発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金に計上するのが原則である(不法行為による損失の発生と損害賠償請求権の発生、確定はいわば表裏の関係)。

<損害賠償請求権の益金計上時期を不法行為にかかる損失計上時期と切り離すか否かの趣旨及び判断基準>

法人税基本通達2-1-43が損失計上と損害賠償請求権の益金計上を切り離す運用を認めているのは、第三者不法行為による損害賠償請求権については、その行使を期待することが困難な事例が往々にしてみられることに着目した趣旨である。

損害賠償請求権の実現可能性を客観的に認識し得るかの判断は、通常人を基準にして、損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったか否かとの観点から行うべきである。

<隠ぺい・仮装行為の該当性判断>

経理部長は、経理業務の責任者で実務上の処理を任されていた者であり、かつ、法人としても容易にその隠ぺい・仮装行為を認識することができ、過少申告をしないよう措置することが十分可能であったのであるから、経理部長の隠ぺい、仮装行為をもって法人の行為と同視するのが相当である。

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不幸なことですが、役員や従業員の横領、経費等の水増し計上による取引業者からの不正なキックバック等が会社で起こることがあります。

(実際、300社ぐらいあると年に1回若しくは2年に1回はどこかの会社で不正が起きてました。)

 

不正が起きたタイミングとその不正が判明するタイミングは、ほぼ、事業年度等がズレます。

 

その場合、課税上の取り扱いはどのようになるのでしょうか。

 

不正が起きた時点の事業年度で不正に関する費用が計上されます。

例えば、

役員が従業員の横領があった場合には横領された金額が損失計上

経費等の水増し計上による取引業者からの不正なキックバックがあった場合には一旦経費等の水増し計上の経費を否認しキックバックの金額が損失計上

することとなります。

 

一方、不正の当事者から損害賠償請求権が発生しますが、そのタイミングは、いつになるのでしょうか。

原則、不正が発生した事業年度となりますが、実際には不正が発見されるまでは損害賠償請求権があるころが会社に分かりませんし、また、その金額に争いがあったり、回収できるかどうかも分かりません。

 

この裁判例では

通常人を基準にして、損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあった

場合には、不正が発覚したときに損害賠償請求権の発生として収入計上できるとしています。

 

簡単にいうと

きちんと管理をしていた場合でも発見できないのであれば、不正が発覚したときに収益計上

ということになります。

 

実際には、

会社の役員や部長等の場合には、不正が起きた事業年度で収益計上

会社の従業員の場合には、不正が発覚した事業年度で収益計上

という感じでしょうか。