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土地、借地権と建物の取得に伴う建物の価額は?(令和2年3月12日大阪地裁判決の一部)

建物がある土地(借地権)を購入した場合、建物と土地(借地権)の購入価額はそれぞれどうなるのでしょうか。

 

個人で取引する場合には、特に気にしなくてもいいのですが、法人や個人事業者の場合、消費税や法人税所得税に影響を及ぼしますので、非常に、重要なことになります。

 

よく問題になるのは、不動産の売買契約書に建物と土地(借地権)の売買金額の区分がなく、一括での金額記載になっていることがありますが、このケースでは売買契約書には、建物と土地(借地権)を区分して売買金額の記載がありましたが、その金額が否認されております。

 

(状況)

・A社は、B社との間で、B社が所有する建物及びその敷地である土地の借地権の売買契約を総額2億7500万円で締結した。

・この売買契約書及び重要事項説明書には、売買代金の内訳として、借地権の価額を5600万円、建物の価額を2億0277万7778円、建物の消費税額を1622万2222円とする旨記載されている。

・建物の税込金額2億1900万円は、売買代金の2億7500万円から、借地権の価額としてA社が財産評価基本通達に定める路線価に基づき計算した価額(5600万円)を差し引いて算出した金額である。

・税務署は、A社に対し税務調査を行い、消費税等について、建物にかかる消費税を売買代金(2億7500万円)を建物の固定資産税評価額(473万1000円)と借地権の固定資産税評価額(4150万2976円)の価額比で按分して算出した2814万0020円であるとして、消費税の賦課決定処分をした。

 

(税務署の主張)

A社B社との価格交渉は、不動産の価額の総額を基準として行われたものであり、借地権及び建物につき、それぞれの資産価値を評価した上で行われたものではない上、総額自体も売買契約締結の約1週間前に合意するに至ったものであって、A社が算出した不動産の内訳価額について、A社がこれをB社に直接伝えることも、両者が実質的な協議を行ったこともなかった。B社は、A社に対する借入金等の返済が主たる目的で売買契約を締結しており、売買代金の総額のみに関心があったことから、売買契約締結日に、A社から提示された不動産の内訳価額を確認しないまま、契約書に署名押印をしたものである。また、B社は、建物自体にほとんど価値はなく、売買契約において主に借地権を売却したものと認識していたのであって、契約書に記載された2億0277万7778円は、B社の認識と著しくかけ離れたものである。他方で、A社代表者は、借地権には価値を見出しておらず、売買代金は建物の代金だと認識していたとのことである。そうすると、A社とB社において、売買契約の前後を通じて、借地権と建物のそれぞれの経済的価値に関する認識がかけ離れているのであるから、不動産の内訳価額について、契約書に記載されたとおり合意するに至ったとは考えられない。以上によれば、売買契約において、A社とB社の間で不動産の内訳価額を合意したとは認められない。

「課税仕入れに係る支払対価の額」は、通常であれば、課税資産の売買契約により定められた代金額がこれに当たる。もっとも、課税資産と非課税資産が一括して譲渡された場合に、その対価の額が合理的に区分されていることを要求する消費税法の性格や、契約当事者が恣意的に割り付けを操作することによりそれぞれの代金額が適正な価額から乖離し得ることになれば、租税負担の公平の原則に反することに鑑みれば、建物と土地(又は借地権)が一括して売買された場合における仕入税額控除の「課税仕入れに係る支払対価の額」は、その対価の額が合理的に区分されていないためにそれぞれの取得価額が明らかでなかったり、それぞれの内訳額が客観的な価値と比較して著しく不合理なものであり、当該内訳額とすることについて個々の取引実態や契約に至る経緯等からみて経済合理性がないといった事情があるときには、合理的な基準により算定される当該資産の合理的な価額をいうと解するのが相当である。

 

(納税者の主張)

B社は、建物価額(税抜金額)と借地権価額が記載された契約書に署名押印をしていることから、契約書全体について真正に成立したものと推定される(民事訴訟法228条4項)。また、B社は、建物価額(税抜金額)と借地権価額が記載された重要事項説明書にも署名押印をしている。

したがって、売買契約において、A社とB社の間で不動産の内訳価額を合意したものと認められる。

「当該資産の購入の代価」とは、その文理上、売買契約における売買代金額を意味するものと解される。A社とB社は、契約書に記載のとおり、不動産の内訳価額について合意しているにもかかわらず、税務署はこれと異なる金額を「当該資産の購入の代価」としており違法である。

税務署は、「当該資産の購入の代価」の意義について、合理的な基準により算定される当該資産の合理的な価額であると解するのが相当であると主張するが、租税法律主義を定めた憲法84条に違反する。

租税法は侵害規範であり、法的安定性の要請が強く働くから、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈をすることは許されない。「当該資産の購入の代価」の解釈については、法人税法22条2項や消費税法施行令45条3項のような規定が設けられていない以上、租税法律主義の観点から、その文言に基づき一義的に解釈すべきである。

税務署は租税負担の公平の原則を根拠として挙げているが、これが租税法律主義に優越することはない。

 

(裁判所の判断)

B社は、不動産の売買代金の内訳価額が記載された契約書及び重要事項説明書にそれぞれ署名押印をしている。また、契約書及び重要事項説明書を作成した仲介業者において、売買契約の締結以前に、B社に対し、不動産の内訳価額という売買契約の本質的要素を確認せずに各書類を作成したとか、売買契約締結日当日に不動産の内訳価額を説明しなかったなどとは通常考え難い。そして、B社は、税務調査時における回答において、売買契約の締結以前に、契約書に不動産の売買代金の内訳価額が記載されることをA社又は仲介業者から聞いていたか否かについて、覚えていない、聞いていたかもしれないが、内訳については関心がなかった旨、売買契約締結日当日、仲介業者から、売買代金及びその内訳等の説明を受けたか否かについて、説明していたかもしれないが、よく覚えていない旨述べているにすぎないことも併せ考慮すれば、B社は、売買契約の締結以前に、仲介業者を通じてA社が提示した不動産の内訳価額を了承していたこと、また、売買契約締結日当日に、仲介業者から、売買代金及びその内訳等の説明を受けたことを認めるのが相当であって、A社とB社の間で直接、不動産の内訳価額に関する実質的な協議がされていないといった事情も、認定を左右する事情であるとはいえない。

そうすると、契約書の記載内容どおりに契約当事者の合意の内容を認定すべきでない特段の事情があるとはいえず、契約書に記載されたとおり、A社とB社との間で、不動産の内訳価額に関する合意があったと認められる。

売買代金(2億7500万円)は、不動産の収益性の高さに着目して合意された金額であるところ、その金額は、借地権及び建物の財産評価基本通達による各評価額の合計額(6073万1000円)の約4.53倍、借地権及び建物の各固定資産税評価額の合計額(4623万3976円)の約5.95倍という金額であり、これらの公平な不動産評価額と比較して非常に高額であるといえる。

物件の土地は鉄道のターミナル駅の改札口から至近距離で、しかも繁華街内に存在するなどの非常に優れた立地条件を備えていることが認められる。建物は、売買契約の締結時において築33年が経過して老朽化が進み、それ自体に固有の経済的価値が認められるような目立った特徴もない。そうすると、不動産につき月額250万円を超える賃料が得られるという非常に高い収益性が認められるのは、優れた立地条件に専ら起因するものであると考えられるのであって、建物には、収益性に係る経済的価値が帰属するとしても、極めて限定的なものにすぎないと考えるのが相当である。

しかしながら、売買代金の内訳額をみると、相続税路線価を基に算出した更地価額に借地権割合を乗じて算出されたA社主張の借地権価額(5600万円)は、借地権の固定資産税評価額(4150万2976円)の約1.35倍にとどまる一方で、売買代金から借地権価額を控除する方法により算出されたA社主張建物価額(税抜金額)(2億0277万7778円)は、建物の固定資産税評価額(473万1000円)の約42.86倍にも及んでいることからすれば、借地権が有する経済的価値が建物の価額に不当に過剰に転嫁され、売買代金の内訳価額が本件建物の価額に著しく偏り、不動産の収益性に係る経済的価値の全て又は大部分が本件建物の価額に配分されているといえる。また、建物価額(税抜金額)(2億0277万7778円)は、昭和57年建築の鉄骨造の標準的な建築価額(2027万3010円)の約10倍もの金額であり、建物に収益性に係る経済的価値が帰属するとしても、その客観的な価値と比較して著しく高額であるといわざるを得ない。

差引法が一般に承認された合理的な基準であったとしても、相続税路線価を基に算出した更地価額に借地権割合を乗じて借地権の価額を求め、収益還元法に基づき算定した売買代金から借地権の価額を差し引いて建物の価額を求めることが合理的であるとはいえない。

合理的な基準により算定される合理的な価額についてみると、売主が土地(又は借地権)及び建物の固定資産税評価額等を上回る価額で譲渡する場合、按分法を用いることにより、土地(又は借地権)と建物の双方に収益性に係る経済的価値が反映されることになり、土地(又は借地権)と建物が一括して売買される取引の実態に合致するといえる。そして、売買契約は借地権と建物を一括して売買するものであり、A社及びB社は、不動産の価額について、その収益性の高さから、固定資産税評価額等以上の経済的価値があると判断して売買代金を合意するに至っているのであって、その収益性に係る経済的価値を借地権と建物に適切に配分する必要があるから、建物に係る「購入の代価」を算定するに当たっては、按分法を用いることが最も合理的な方法であるといえる。

したがって、建物の売買金額は、税務署が算定した建物価額であると認められる。

 

(裁判例を参考にすること)

不動産の売買価額は、相続税評価額や固定資産税評価額で決まることはめったにありません。

 

不動産は、購入したい人や売却したい人のそれぞれの意思によって、同じ物件であっても価額が違ってきます。

 

売買契約書に土地(借地権)や建物の価額の記載があったとしても、それが絶対に税務調査で問題なく是認されるということはありません。

 

一般的な考え方から外れた契約であると税務調査で否認される可能性がありますので、やりすぎたことは慎むことが望まれます。

 

 

 

判例

タインズより判決文引用

 

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