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役員の退職慰労金の支給(令和2年12月15日裁決の一部)

中小企業の場合、社長や会長が役員を形式的に退任したとしても、経営に参画したままで実質的には退任していないケースがあります。

役員退職慰労金の支払いをした場合、形式的にも実質的にも役員を退任したのであれば、税務調査で問題にはなりませんが、形式的には退任しているが実質的には退任していない場合には、役員退職慰労金の損金算入について問題になる場合があります。

長期間役員に就任していて役員退職慰労金が多額になる場合に法人税法上損金算入が認められない場合には多額の法人税等の支払いが生じるケースがありますので、注意が必要です。

 

(状況)

Aさんは、会社の代表取締役を務めていたが、平成24年11月30日、代表取締役及び取締役をいずれも辞任し、同年12月、その旨の登記がされた。

会社は、平成24年11月30日に、Aさんに対して退職慰労金を支給する旨の臨時株主総会の決議に基づき、請求人の役員退職金規程により算出した725,000,000円を役員退職慰労金勘定に計上し、同年12月18日から平成25年9月9日までの間に、Aさんに対し、源泉所得税額を差し引いた全額を支払った。

Aさんは、平成24年12月1日以降少なくとも平成29年3月31日までの期間において、登記上役員としての地位を有しておらず、使用人でもなかった。また、上記期間において、Aさんに対して会社は役員給与及び従業員給与を支給した事実もなかった。

 

(税務署の主張)

グループ経営会議への出席及び指示命令について

Aさんは、辞任後も継続して、毎月開催されるグループ経営会議につき、その開催日時を自ら決定や調整の指示をした上、直接又はスカイプを使用して出席し、グループの各代表取締役らに対し、売上げや利益、営業活動等経営に係る報告を求め、当該報告に対し、今後の指示をしていた。このように、Aさんが、グループの基幹となる会議である経営会議において、その各代表取締役らより上位の立場で振る舞い、それに上記各代表取締役らが従っていたことからすると、Aさんは、まさに、会社の経営に従事していたといえる。

<グループ経営会議以外での指示命令について>

Aさんは、辞任後も継続して、グループ経営会議以外においても、グループの各代表取締役や社員に対し、スカイプ、メール、○○○○という名称のソーシャルネットワーキングサービス(以下、単に「SNS」という。)及び電話などにより、随時、各種業務に関する指示命令及び決裁を行っており、法人グループに属する各法人間の資金移動に係る指示などもしていた。

<金融機関等との交渉>

Aさんは、辞任後も継続して、新規融資の申入れ、融資の利率変更及び返済等に係る相談など資金調達や、収益物件の取得及び太陽光発電事業への参入等の新規事業に関して、各金融機関との間で、直接的又は間接的に交渉し、自ら最終的な判断をしていた。

<新規事業の決定等>

Aさんは辞任後においても、従業員に対して太陽光発電事業に係る指示をしたり、税理士に当該事業に係る資金相談をしたりしており、太陽光発電設備の販売業者がAさんを法人グループの人間と認識していたことからすると、Aさんは、グループの新規事業に係る決定等をしていたといえる。

 

(不服審判所の判断)

<グループ経営会議への出席及び指示命令について>

Aさんが、辞任後に、グループ経営会議において、経営方針・予算・人事等の事業運営上の重要事項につき、具体的な指示や経営に関する決定をしたこと及びその内容や方法を示す客観的証拠はなく、いつどのような内容の指示や決定を行ったかという具体的な状況については明らかとはいえない。したがって、辞任後のグループ経営会議における、Aの事業運営上の重要事項に係る具体的な指示等の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

Aさんが会社を含むグループ全体のいわゆる実質的なオーナーといえる立場にあったことから、仮に、税務署が指摘するように、Aさんが法人グループの一員として本件経営会議の参加者とされ、Aさんが、グループ経営会議において、グループの各代表取締役らより上位の立場で振舞っていたという事実があったとしても、そのことをもって、Aさんが、辞任後も継続して、会社の経営に従事していたとまで直ちに認めることはできない。

<グループ経営会議以外での指示命令について>

確かに、SNSには、Aさんから法人グループ間の資金移動に係るものなど様々な指示ともとれるようなやりとりがみられ、当該期間に、Aさんが、法人グループ全体のいわゆる実質的なオーナーとして振る舞っていたことはうかがわれるものの、法人グループのいずれの法人の業務に係るやりとりなのか不明なものが多くみられ、上記の指示等が会社の事業運営上の重要事項に係る指示かは不明である。辞任後、Aさんが会社の業務に関して具体的な指示等をしたこと及びその内容や方法を示す客観的な証拠はない。Aさんが辞任後も継続して、会社の事業運営上の重要事項に係る具体的な指示命令及び決裁をしていたと認めることは困難であり、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

<金融機関等との交渉>

会社提出資料及び審判所の調査の結果によれば、Aさんの辞任の日から平成28年3月31日までの期間において、金融機関から新規融資を受けていないと認められ、実際に新規融資に向けた具体的な交渉が行われたことを認めるに足りる証拠もない。

会社の銀行からの融資につき、辞任の約3か月後である平成25年3月7日に、その連帯保証人がAさんから当時の代表取締役であるBさんに変更され、この事実は、辞任に対応した措置が金融機関との間で具体的に執られたことを示すものである上、Bさんが会社の代表者としての自覚と責任のもとに自ら決定したことを推認させるものといえる。

Aさんが辞任後も継続して、金融機関との間で具体的な交渉を行い、自ら最終的な判断をしていたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

<新規事業の決定等>

会社は、平成27年3月頃にC社から太陽光発電設備を購入しており、その購入時期は辞任から約2年4か月後のことで、辞任後間もない時期に、太陽光発電事業を新規に開始することを決定したとは認められず、その他、Aさんが辞任後に、事業運営上重要な新規事業を決定したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

退職給与として損金の額に算入されないと判断すべきその他の事情もないことから、退職給与として、損金の額に算入される。

 

(日々でやるべきこととは)

この裁決事例をみると

1.退任したら経営会議や取締役会等の重要な会議に出席しない

2.金融機関等との折衝は行わない

3.可能であれば、借入の債務保証の変更を行っておく

ことが望まれます。

 

(留意事項)

この裁決事例では、ここに記載はしていませんが、Zさんの申述に税務署が飛びついた結果、税務署が誤った判断をしてしまったと思われます。

Zさんは平成22年頃、グループの総務・経理事務等を担当していたY社に入社し、平成24年10月頃から平成29年1月31日までの間、Y社の登記上、代表取締役の地位にあり、Y社以外のグループのうちの数社についても、その登記上、代表取締役の地位にあった時期がある方でした。

Xさんは、申述当時、その地位等に関し、ZさんがY社に対して提起した地位確認等請求訴訟やAさん及びX社に対して提起した損害賠償請求訴訟並びに請求人やY社等から提起された損害賠償等請求訴訟がそれぞれ係属中で、その申述に信頼性について非常に危ういものでした。

しかし、税務署はZさんの申述をそのまま採用し、実際の状況をきちんと把握していたか疑問と思われます。

税務調査は、会社に対して悪意を持っている方にもヒヤリングを行ったりしますので、適切にその対応をしないと大変なことになることもあります。

 

 

裁決

(令和2年12月15日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)

 

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