税務調査は怖くない

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同族会社の行為又は計算の否認 過大賃借料(平成28年5月30日裁決の一部)

個人とその個人等が株主の会社(同族会社)との間の取引については、取引金額等が個人や同族会社の都合のいいように決めることができます。

普通ではありえない取引が行われ、税金の金額が不当に低くなった場合には、その取引を税務署側で通常の取引であったとしたときの取引金額で計算して、その取引金額で税金の金額を計算することができます。

ただ、これは非常にレアケースで、よほどのことがない限り税務署はこのようなことは行わず、伝家の宝刀と言われていますが、時々、この宝刀の威力が発揮されることがあります。

 

(状況)

Aさんは医師であり、平成○年1月から医業を営んでいる。

Aさんの妻のBさんはC社の代表取締役で、C社は不動産の賃貸業等を行っており、また、C社は同族会社に該当する。

Aさんは、平成○年7月1日に、C社から診療所と駐車場を賃借した。

Aさんは、C社に対し、賃料として、平成23年分○○○○円、平成24年分○○○○円及び平成25年分○○○○円を支払っていたが、平成27年4月に、各年分の賃料をいずれも年額○○○○円(月額○○○○円)に遡及して変更した。

税務署は、AさんとC社との賃料が適正賃料の金額と比較して明らかに高額で、Aさんの所得税の負担を不当に減少させる結果となるとし、平成27年4月27日付で更正処分をした。

 

(税務署の主張)

実際の賃料の金額と税務署が算定した適正賃料の金額と比べ明らかに高額であり、C社がAさんから賃料を収受したことによりAさんの所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。

適正賃料の算定は、賃借している診療所と類似する物件と賃借している類似する駐車場を抽出し、診療所と類似する物件の1平方メートル当たりの月額賃料の金額の平均額及び類似する駐車場の1台当たりの月額駐車料金の金額の平均額を算出し、それらを基に適正賃料を算定しており、合理性がある。

 

(Aさんの主張)

賃貸借は建物及び土地を対象としたものであり、建物及び駐車場を対象としたものではない。

その土地は診療所の建坪以外は、駐輪場、駐車場、庭と自由に使用できるスペースがあり、税務署が診療所駐車場としているスペースは駐車場として賃借されているものではない。

したがって、平均月額賃料及び平均月額駐車料金を基に適正賃料を算定することは誤りであり、その算定方法には、合理性がない。

適正賃料を算定するに当たって、類似物件が3件以下の場合は、比較検討することに信ぴょう性を保てず、類似物件は2件のみであるから、その平均月額賃料の金額には信ぴょう性がない。

 

(不服審判所の判断)

適正賃料を算定するに当たっては、対象となる不動産の用途等を踏まえる必要があり、診療所の建坪以外の大部分は、実際に駐車場として利用されているのであるから、実際の用途(利用実態)を考慮しないAさんの主張には理由がない。

税務署が類似物件抽出基準により類似物件を抽出することは相当であり、また、その抽出過程において恣意は認められないことから、結果的に採用された類似物件が2件又は3件であったとしても、これらを基に算定された適正賃料の金額の合理性は否定されるものではなく、Aさんの主張には理由がない。

審判所が算定した適正賃料額と実際の賃料の金額を比較すると、実際の賃料の金額は適正賃料額より年額で○○○○円以上も高額であり、5倍以上であるから、AさんがC社に対し賃料を支払い、C社が本件賃料を収受したことは、経済的、実質的見地において、通常の経済人の行為として経済的合理性を有していない。

また、適正賃料額を基に計算したAさんの所得税の額と実際の賃料の金額を基に計算した所得税の額と比較すると、Aさん所得税の負担は、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円、平成25年分は○○○○円も減少している。

したがって、同族会社であるC社がAさんから賃料を収受したことを容認した場合には、その同族関係者等であるAさんの所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。

したがって、税務署が行った更正処分は適法である。

 

(税務調査でやるべきこととは)

賃料の合理的な金額である根拠資料を提示することが必要です。

 

(日々でやるべきこととは)

マンションやアパートなどは比較的多くの物件があり、また、それほど特殊性がないことが多いことから、インターネット等を活用することで、その賃料が近隣の相場並みである根拠資料を入手することが可能だと思います。しかし、テナントや今回の診療所のように近隣に同じような物件がない場合には、なかなか近隣の相場並みである根拠資料の入手は困難なことが多くあります。近隣の不動産会社に相場となる賃料を聞くことができるのであれば、ヒヤリングした結果を資料として保存し、それを根拠として残しておくのも一つの方法だと思います。

 

裁決

(平成28年5月30日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)

 

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