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間接事実を積み上げて真実を探求する(収集する資料の重要性)-資金提供されたのか、業務の対価なのか- 019 (平成21年2月)

東京国税局課税第一部国税訟務官室では、税務署職員に対して「調査に生かす判決情報」と題して「調査手続」や「証拠の収集と保全」など調査等に役立つポイントについて、具体的事例や判例を紹介しながら、数回に分けて発信しています。

すべてが正しいとは思えませんが、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と言います。税務署がどのように考えているのかを知ることは重要です。

 

納税者意識の高まりを受けて、課税処分の所得金額の争いにとどまらず、調査手続の違法性を併せて争う事例が増加していることから、税務署に以下のように注意喚起をしています。

 

<参考判決 東京地裁平成20年6月12日判決(国側勝訴)>

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1 裁判官による事実の判断

裁判は、具体的事実に法規を適用して訴訟の対象となっている権利関係の存否について、裁判官が審理・判断することによって行われます。裁判官は、法規上の権利関係の存否を判断するに当たって、この法規上の権利を発生させるのに必要な法律要件に該当する具体的事実(要件事実〉の存否を判断します。

現実の訴訟において、裁判官は、何らかの事実を確定して、適用すべき法規の存在やその内容の解釈をもとに法的判断を行い、何らかの結論を出すことを迫られていて、何らかの方法で、法的判断の前提となる要件事実を確定しなければなりません。このように、裁判官による事実認識の作業は「事実認定」といわれ、最終的には要件事実が存在したといえるかを確定する作業になります。

では、実際に裁判官はどのように事実認定を行っているのでしょうか。

元裁判官(注1)によれば、次のような判断過程となるそうです。

① 事実認定の対象となる事実を確定する(争点の確定)。

② 証拠(注2)から要件事実や間接事実(注3)を認定する判断を行う。

③ 間接事実から要件事実を推認(注4)する判断を行う。

④ 裁判官として事実が認定されたと判断する。

実務上は、端的に要件事実が認定できる場合は少なく、②で認定した間接事実を積み重ねて、③の要件事実を推認する作業を迫られることが多いとのことです。

このような事実認定における判断の基本をなす考え方は、自由心証主義(民訴法247条)であるといわれています。

2 裁判においてのルール

裁判においては、訴訟当事者が裁判の前提となる事実関係の収集・提出・解明を行う役割を担っているとするルールがあり、その内容は次の3つの原則から構成されています。

① 裁判所は、当事者が主張していない事実を認定して判決の基礎とすることができない。

② 裁判所は、当事者間に争いのない事実についてはそのまま判決の基礎としなければならない。

③ 裁判所は、当事者間に争いのある事実を認定する場合には、原則として、当事者が申し出た証拠によらなければならない。

この原則が適用される事実は、要件(主要)事実に限られ、間接事実は当事者が主張しなくとも、訴訟資料として裁判所に提出されたものであれば、裁判所はこれを判決の基礎に採用することが許されるし、当事者の主張と異なる間接事実を証拠から認定することも妨げられません

(注1) 伊藤滋夫「事実認定の基礎」(有斐閣)、裁判所職員総合研修所監修「民事訟法講義案」(司法協会)

(注2) 一般的には、事実認定の基礎となる資料であり、認定の対象となる事実についての裁判所の判断資料

(注3) 権利の発生などの法律効果の判断に直接必要ではない事実

(注4) 判例としては、「推認」という用語について、「用語法は、裁判所が、‥証拠によって認定された間接事実を総合し経験則を適用して主要(要件)事実を認定した場合に通常用いる表現方法であって、‥」とある(最高裁昭和43年2月1日判例時報514号54頁)。

3 調査において参考になる点

(1) 上記1及び2のとおり、裁判所は、間接事実を積み上げて要件事実を認定するところ、参考判決においても同様の方法が行われています。

すなわち、参考判決に関して裁判所は、課税当局が調査で収集したP社の内部資料から、P社グループの経営会議において検討し決定された内容、P社の経営状況、不具合対応業務に係る

外注費の算定方法、不具合対応業務に関する事実を積み上げて、「不具合対応業務の実体は存在したとはいえない」と判断しました。

ところで、間接事実を積み上げて要件事実を認定することは、課税の場面でも同様と思われます。すなわち、課税要件事実を把握することが困難な場合であっても、間接事実を積み上げることによって課税要件事実を推認することができる場合があるからです。

また、把握した課税要件事実について、間接事実を積み上げて検討することにより、その把握した課税要件事実が真実のものかどうかを判断することができると思われます。

このように、課税の場面においても間接事実は重要であり、この間接事実を積み上げるためには、税務調査において数多くの資料を収集しなければならないと思われます。すなわち、収集した資料が数多くあれば、間接事実も数多くなり、その間接事実の積み上げによって真実を把握することができるということです。

(2) 調査で問題事項等を検討する際、次のような点に気を配ってみてはどうでしょうか。

ア 調査で収集した資料の記載内容のウラをとること

調査で収集した資料に記載されている内容を他の資料などと対比したり、関連する資料等を時系列などにより整理・分析し、資料の記載内容が真実かどうか、すなわち、資料の記載内容の信用性について裏付けをとりましょう。

イ 調査における資料の収集及び検討は、関連する事項も含めて行うこと

資料の収集及び検討に当たっては、対象とする事項のみならず、その事項に関連すると思われる資料も対象とし、個々の情報を有機的に結びつけて検討しましょう。

ウ 調査資料等の収集・検討・整理に当たっては、八何の原則、5W1Hなどを念頭に行うこと

検察や警察関係において事実関係を識別し、情報を整理する方法として用いられる八何の原則は、①だれが ②だれと ③なぜ ④いつ ⑤どこで ⑥何を又はだれに対して ⑦どんな方法で ⑧何をしたか からなるとされています。

これらを念頭に資料等を収集・検討・整理・保管することを心掛けましょう。

以下、黒塗り

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今回は、「調査に生かす判例情報」を長く引用しました。

 

非常に日々の取引、会計・税務処理を行う上での気にすべき点が多数あります。

 

1 裁判官による事実の判断

2 裁判においてのルール

非常にコンパクトにまとめられて、比較的わかりやすく説明されているのではないでしょうか。

裁判所では、どのような取引があったか(事実認定)をどのように判断していくのかを説明しています。また、裁判になったら、裁判官に文書等で説明できなければ、その取引があったこと(事実認定)が認められません。

ということは、誰でも誤解がなく分かるように取引に関する資料を揃えて置く必要があることになります。

 

3 調査において参考になる点

まさに、「敵を知って・・・」の敵を知るうえで非常に有用な情報です。

 

残念ながら、「3 調査において参考になる点」以下及び「4 終わりに」は黒塗りになって、

当該部分は、税務調査を行うに当たっての留意点等が記載されており、当該部分を公にすることにより、租税の賦課に係る事務に関し、今後正確な事実の把握を困難にするなど税務行政の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため。

当該部分は、訴訟事務を行うに当たっての証拠収集及び証拠保全に係る留意点等が記載されており、当該部分を公にすることにより、当局の訴訟事務の遂行における適時の証拠収集や証拠保全を通じた立証活動の方針等が明らかとなり、その結果、証拠収集に対する非協力を惹起するなど、国の当事者としての地位を不当に害し、訴訟事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため。

との理由で開示されていません。

 

しかし、非常に有用な情報だと思います。

 

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