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耐用年数の短縮の可否 (平成7年2月27日裁決の一部)

将来、建物等の取壊し等が決まっている場合、建物等の取壊しまでの期間と耐用年数の残存期間とに差が生じることが通常おこります。

耐用年数の残存期間の方が短ければ、取壊しまでに簿価が1円となり、取壊し時点で1円の除却損となりますが、耐用年数の残存価額が長い場合、取壊し時点で簿価が残ってしまうため、場合によっては除却損が多額に生じることもあります。

法人税施行令及び所得税施行令において、それぞれ、耐用年数を短縮できる制度が定められておりますが、建物等の取り壊し等が決まったことによって、耐用年数を短縮できることはできるのでしょうか。

 

(状況)

Aさんは、賃貸借期間を10年とし、期間満了とともに本件建物を取り壊す旨の条項が定められている賃貸借契約を結んだ。

Aさんは、税務署に上記賃貸借契約があることをもって、「耐用年数短縮の承認のお願い」と提出したが、税務署は「耐用年数短縮の承認をしなかった。

 

(税務署の主張)

減価償却資産の耐用年数は、その本来の用途、用法により通常予定される効果をあげることができる年数、すなわち、その減価償却資産の本来の効用の持続する年数である。

したがって、個々の減価償却資産に耐用年数の算定の前提とされている諸条件と異なる事情がある場合には、その実際の耐用年数と制度上の耐用年数とが異なる結果になる。

そこで、その相違が著しい場合には、実際の耐用年数と制度上の耐用年数との調整の必要が生じる。

所得税法施行令では、耐用年数が短縮できる特別の事由として、次の場合を挙げている。

・その減価償却資産の材質又は製作方法が種類及び構造を同じくする他の減価償却資産の通常の材質又は製作方法と著しく異なることにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと。

・その減価償却資産の存する地盤が隆起し又は沈下したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。

・その減価償却資産が陳腐化したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。

・その減価償却資産が使用される場所の状況に基因して著しく腐食したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。

・その減価償却資産が通常の修理又は手入れをしなかったことに基因して著しく損耗したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。

・その他の事由で省令で定めるものにより、その減価償却資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと又は短いこととなったこと。

以上述べた特別の事由として挙げられているのは、いずれも、そのために使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと又は短いこととなった場合である。

この建物は、その材質及び構造等が同様の他の建物と比較して、その使用可能期間が著しく短くなるものとは認められず、また、その使用の態様も通常の維持管理がなされる下での一般的に行われている建物の貸付けと何ら異なるところはないものと認められる。

さらに、Aさんは、契約において、賃貸借期間が終了した後建物を取り壊す旨の条項があることをもって、耐用年数の短縮承認申請の理由としているが、そのことによって建物の使用可能期間が著しく短くなるものではなく、また、申請の理由は、減価償却資産の耐用年数が短縮される場合の特別な事由のいずれにも該当しない。

 

(納税者の主張)

契約は、次のAないしGに述べる内容を賃貸借の条件としており、特にFで述べる契約期間満了後の本件建物の取壊しという条項は、契約の大前提で必要不可欠であり、何らかの租税回避を目的としたものではない。

A 賃貸借期間を10年間とし、更新は絶対にしない。

B 賃借人を限定する。

B 賃借人の建物の用途、用法を限定し、賃借人の使用目的に合致した建物を提供することで、建物の賃貸建物としての汎用性、転用性を否定する。そのため、賃借人は建物の設計段階から参加し、また、賃借人は、建物の全部を賃借する。

D 賃借人は請求人に対し、10年間の借上げを保証する。

E 10年後に新築計画がある。

F 契約期間が満了し、建物の明渡し後、建物を取り壊す。

G 借家権の存在を排除若しくは認めない。

減価償却費の計算に際しては、固定資産の材質や構造から耐用年数を決定するのではなく、費用配分若しくは費用収益の対応からして、効用期間あるいは利用期間を耐用年数とするのが正確な損益計算となり、ひいては、それに基づく課税が正しく行われることとなる。

また、適正な耐用年数によらず、法定耐用年数によって減価償却費の計算を行った場合、年々の減価償却費たる費用が計上不足となり、10年後に現実に建物を取り壊したときに結果として一時の損失が算出されることになる。この損失の内容は、予見できない外的事情によるものではない。なぜなら、ここで生ずる損失は、事前に充分計算され得る減価償却不足の累計額であり、本来は残存価額として資産本体価額にあってはならないものである。

したがって、賃貸借期間が10年に限定され、賃貸借期間終了後取り壊されるものであることから、本件建物の耐用年数は、法定耐用年数の40年ではなく、賃貸借期間に応じた10年となるから、耐用年数の短縮を承認すべきである。

 

(不服審判所の判断)

資産の耐用年数については、耐用年数省令により資産の種類、構造又は用途、細目によって定められているが、このように耐用年数を省令で定めているのは、所得税法が、納税者が耐用年数を恣意的に決定することを排除し、課税の公平を図るため画一的処理ができるようにしたものであると解される。

しかしながら、資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短くなったような場合までもこれに従うこととするのは、かえって課税の公平を欠くこととなることから、所得税法施行令では、一定の事由により資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短くなった場合などには、納税地の所轄国税局長の承認により、耐用年数の短縮を認めている。

所得税法施行令は、耐用年数の短縮を認める特別な事由を列挙しているが、これらの事由からみれば、耐用年数の短縮は、減価償却資産の使用可能期間が法定耐用年数よりも物理的ないしは客観的に短くなるという事由が現に発生しているような場合に限って認める趣旨にでたものと解するのが相当である。

建物についてみると、Aさんが耐用年数の短縮を求める理由としている「賃貸借期間(10年)満了に伴う本件建物の取壊し」は、建物自体の構造等に変化が生じて物理的、客観的に使用可能期間が短くなったという事由ではなく、取壊しの行われることが将来予定されているという契約当事者双方の取決めを理由とするものにすぎないというべきところ、納税者が耐用年数を恣意的に決定することを排除するという所得税法の趣旨に照らしても、所得税法施行令に掲げられている事由には該当しないことが明らかである。

また、契約書によれば、建物の構造は、フッソ樹脂塗装溶融亜鉛メッキ鋼板葦鉄骨造3階建であることが認められるから、これを耐用年数省令に照らせば、その法定耐用年数はAさんも自認しているとおり40年となるところ、Aさんは、上記契約に定めた賃貸借期間以外に建物の耐用年数が短縮されるべき物理的な事由については主張せず、また、当審判所の調査によっても、建物の上記構造その他からみて、建物について所得税法施行令に掲げられている事由に該当するというべき耐用年数の短縮を認めなければならない特別な事由があるとも認められない。

したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

Aさんは、費用収益対応の観点からいっても、賃貸借期間すなわち使用可能期間を耐用年数とすることによって正確な損益計算が可能になり、ひいては、適正な課税が行われることになるから、耐用年数の短縮を認めるべきである旨主張する。

しかしながら、所得税法にあっては、納税者が恣意的に定めた使用期間を耐用年数として減価償却費の額を算定することを排除しているというべきであるから、契約によって使用可能期間を定めたからといってこれが減価償却費の額の算定基礎となる耐用年数になるということはできず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

Aさんは、賃貸借期間10年によらず、法定耐用年数40年を適用して減価償却費の計算を行った場合、年々の減価償却費たる費用が計上不足となり、10年後に建物を取り壊したときに一時の損失が算出されることになり、当該損失額は減価償却不足の累計額であり、このことは、会計理論からしても、課税の公平の目的からしても、全く不条理な結果となる旨主張する。

しかしながら、所得税法には、「減価償却資産につきその償却費として必要経費の規定によりその者の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その者が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする」旨規定していることからも明らかなように、所得税法にあっては、一定の償却方法に基づく一定の計算方法によって算定される減価償却費の額のみを必要経費の額に算入することとしており、むしろこのことによって課税の公平を担保しているものと考えられること、また、所得税法において、「事業の用に供される固定資産について、取壊し等の事由により生じた損失の金額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入する」旨規定していることからも明らかなように、所得税法にあっては、事業用の固定資産が取り壊されたような場合には、取り壊された同資産の実際の残存価値がその取り壊した日の属する年分に消滅した事実を捕らえて必要経費に算入するというもので、各年分において、将来の取壊しに伴う事業用の固定資産の損失をあらかじめ配分することとはされていないことからすれば、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

 

(設備投資をする上での留意点)

賃貸契約等で使用期間と法定耐用年数に違いが出たときには、耐用年数の短縮ができるといいのですが、この裁決事例を見れば、短縮はできません。

そうすると、除却時に多額の除却損が発生しますが、これを他の所得で相殺しきれればいいのですが、相殺しきれない場合には、繰越すことになります。繰越すことによって相殺できればいいのですが、切り捨てされてしまう場合には、永久に必要経費、損金算入できなくなってしまいます。

除却損が切り捨てられないように、設備投資の計画をすることが必要です。

 

裁決

(平7.2.27裁決、裁決事例集No.49 100頁) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)