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会社代表者に対する業務委託費の役員賞与認定 (平成28年3月31日裁決の一部)

会社から個人へ業務委託費を支払った時には、損金算入が当然できるものと思います。しかし、法人税法では、みなし役員の規定があり、個人がみなし役員に該当してしまうと支払った業務委託費がみなし役員に対しての役員報酬に認定され、定時同額部分のみが損金算入でき、それ以外の部分については役員賞与として損金不算入になります。また、消費税についても業務委託費であれば支払った消費税を控除できますが、役員報酬は不課税になってしまい控除できなくなってしまいます。

このケースでは、税務調査において更正処分を行うために集めた資料が十分でなかったのか、そもそも、みなし役員に該当しないような状況であったのに税務署が無理やりみなし役員としてしまったのか判断できませんが、税務署に対して厳しい判断となっています。

 

(状況)

A社は、損害保険代理業及び生命保険の募集に関する業務を行うことを目的とする同族会社である。

A社の代表取締役の状況は以下のとおりである。

  Bさん 平成17年4月○日から平成20年11月30日まで

  Cさん 平成20年12月1日から平成21年2月20日まで

  Dさん 平成21年2月20日から平成21年9月11日まで

  Eさん 平成21年9月11日から平成22年7月29日まで

  Fさん 平成22年7月29日から平成24年4月25日まで

  Eさん 平成24年4月25日以降

Eさんは平成17年4月○日から平成19年2月28日まで監査役に就任していたが、上記の代表取締役に就任していた時期を除いて役員についていなかった。

A社とEさんとの間で、委任型募集人業務委託契約を締結し、A社はEさんに、平成23年3月期及び平成24年3月期に報酬規定に基づく報酬の額を支払って費用し、税務上損金算入した。

税務署は、平成23年3月期及び平成24年3月期においてEさんの報酬はみなし役員に該当し、支払報酬料が役員給与に当たり損金に算入されないとして更正処分を行った

 

(税務署の主張)

Eさんは、代表取締役に再度就任する前である平成23年3月期及び平成24年3月期において、A社の発行済株式の50%を超える株式を保有していたことから、第一順位の株主グループに属していた。

Eさんは、G社との間で締結された平成24年1月17日付の報酬計算等に係る業務委託契約書に、代表取締役に再度就任する前にA社の代表者として署名及び押印をしていた。

平成26年3月24日付文書では、「Eさんは、H社を退職し、A社を創業した。」との記載があることや税務調査の担当職員に対し「A社の代表者になる前は、保険会社を辞めたばかりですぐ代理店の社長になれず、当初は母親を代表登記していたが、実際は、自分がいろいろ切り盛りをして、会社をやっていた。」と説明していることから、EさんはA社の設立当初から経営に携わっていた。

平成26年3月24日付文書では、「Eさんは、優秀な営業マンを採用することなどのリクルート活動にまい進してきた。」との記載があり、A社の人事に携わっていたこと

A社の資金計画に関わっていた、

したがって、Eさんは、創業時から事業運営上の重要事項に参画していたものと認められ、代表取締役に再度就任する前の平成23年3月期及び平成24年3月期において、みなし役員に規定する「会社の経営に従事しているもの」に該当し、支払報酬料が役員給与に該当し、損金に算入することができない。

 

(不服審判所の判断)

EさんがA社の代表取締役に再度就任する前の平成24年1月17日付の報酬計算等に係る業務委託契約書に、A社の代表取締役としてEさんが署名及び押印をしていることをもって、税務署は、Eさんが平成23年3月期及び平成24年3月期において役員に該当することの根拠の一つとして主張しているが、この当時代表取締役でなかったEさんが代表取締役として署名、押印した書面があるからといって、代表者でないものが契約当事者となっているというにすぎず、その契約内容も重要な業務に係るものとはいえないことから、報酬計算等に係る業務委託契約書をもってEさんがA社の経営に従事していたことを裏付けるものとまでは認め難い。

税務署は、EさんがA社の人事や資金計画に関わっていたことについて、平成26年3月24日付文書の記載内容や税務調査の担当職員に対する「実際は、自分がいろいろ切り盛りをして、会社をやっていた。」との説明を根拠の一つに挙げている。しかしながら、これらの内容からはいつの時点においていかなる役割を担っていたのかが必ずしも明らかでない。また、これを具体的に裏付ける証拠資料の収集がされていない上、A社は、この点について、Eさんが切り盛りしていたのは営業のことであり、また、資金繰りについても代表取締役に再度就任した後に関与したもので、それ以前は対外的な仕事にも資金繰りにも関わっていない旨主張し、この主張を排斥するだけの証拠資料も存しない。

税務署は、Eさんが平成23年3月期及び平成24年3月期においてA社の経営に従事していたかどうかについて、EさんのA社との関わりや職務内容について少なくとも税務署から提出された証拠資料からはうかがい知ることはできない。

また、平成24年4月25日にEさんが代表取締役に再度就任する前にA社において具体的にいかなる役割を果たしていたのか、代表取締役に再度就任する前と後とでその役割に違いがあるのかなどの経営に従事していたとする具体的な事実関係が提出された証拠資料上明らかではない。

EさんがA社において単なる一使用人にすぎなかったとは考え難いところであるが、Eさんが代表取締役に再度就任する前の平成23年3月期及び平成24年3月期において経営に従事していたことを裏付ける事情が明らかになっていないものというほかない。

したがって、EさんがA社の経営に従事していたとは認めるに足りず、税務署の主張する事実以外にこれを認めるに足りる証拠資料がないため、Eさんが平成23年3月期及び平成24年3月期において、A社の「経営に従事しているもの」に該当すると認めるに足りないといわざるを得ないから、Eさんはみなし役員に該当するとはいえない。

 

(日々でやるべきこととは)

少なくとも役員に就任しているときに業務委託費を支出した場合には、役員報酬に該当してしまい、損金に算入できない部分が生じる可能性が非常に高いので業務委託に相当する部分の報酬の支払について検討することが必要です。

役員に就任していないにしても、経営に従事していないことが分かる資料として議事録や日誌等を残してことが必要です。

税務署からすると、役員に就任して、その後、辞任、また役員に就任するといったことがあるとみなし役員に該当するであろうという先入観が生じるので、不必要な異動は極力なくし、どうしても役員の異動が必要であれば、その理由をきちんと書類として残しておくことが必要です。

 

裁決

(平成28年3月31日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)

 

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